<外から内へ視点の転換>


オートポイエーシスの理論はマトウラーナという特異な神経生理学者の創意により生まれました。
マトウラーナはシステムを捉える視点の位置を全面的に変更し、システムを記述する言葉を変え、システムの機構をつくりかえました。

従来の生命システム論は自己維持しながら、外界と物質代謝を行い、環境との相互作用をつうじて自己形成を行っていくというイメージで捉えられます。

それに対し、オートポイエーシス論は、システムが環境との境界をどのようにして画定していくか、環境世界との関係を自らどのようにつくりだすかを考察します。
システムのありかたをシステム自身との関係で明らかにしようとするのです。
ここには視点の大きな変更があります。
システムの考察を観察者の立場から行うのでなく、システムそのものから行うという全面的な変更がなされています。

この視点の転換はオートポイエーシス構想の契機となった神経生理学の研究に理由を求めることができます。
外的な物理的刺激と神経システムの活動を対応させようとしてもうまくいかないので、神経システムはそれ自体の内部でのみ作動しているはずだとマトウラーナは考えました。

神経システムは、感覚器表面において絶えることなく環境世界からの刺激を受容しています。しかし、神経システムの作動で行われることは、神経システムの構成素を、産出、再産出するだけであり、システムはそれ自体の同一性を保持するよう、自己内作動を反復するだけです。
たとえ感覚器表面に環境世界からの刺激が与えられようと、この刺激に対処するよう神経システムが作動しているわけではありません。

さらに神経システムの側から見るなら、このシステムの特定の作動をひきおこす要因が、観察者から見て内的なものであろうと外部に由来するものであろうと神経システムはこれらを区別しません。また、環境との関係で区画されるような境界はなく、その境界をもとに想定されているインプットもアウトプットもないことになります。
このことによって神経システムは作動において、ことに構成素の産出において一貫した閉鎖系をなし、同時に環境との関係においては、内部も外部もないというかたちで開かれていることになるのです。

経験科学の研究局面における視点の移行がシステムの論理へと転化されたとき、オートポイエーシス論が誕生しました。


<動的平衡システム>は外界と物質代謝、エネルギー代謝を行いながら、自己を維持する有機体をモデルとして組み立てられました。
有機体は外的環境と相互作用をする開放システムですが、環境条件が変化しても均衡状態に調整し自己維持する機構が備わっています。気温の変化にもかかわらず、体温を一定に保ったり、少々の病気であれば自然治癒したりする特質を「ホメオスタシス」と呼びます。
開放系の動的平衡システムの基本構想をベルタランフィは一般システム論としてまとめ、様々な現象領域の中に有機構成にかんする共通の法則性を見い出しています。

<自己組織システム>は発生芽や結晶形成、動物の変態、河川の蛇行などさまざまな現象において見い出されたシステム論です。
発生芽は細胞分裂を繰り返し、個々の器官へ、さらには個体へと形成されていき、結晶は溶液中から偶然になんらかの外的要因で析出されると同様の生成プロセスが断続的に進行し、形態を変化させながら成長していきます。
無秩序な状態から自己生成をへて秩序ある状態を形成するプロセスをさまざまな物質現象に見い出したシステム論を自己組織システムといいます。


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