退職給付会計に係る税務上の取扱い


退職給付会計基準では、退職給付費用を発生年度の費用として計上し、退職給付引当金を計上します。また、退職金は支給時に退職給付引当金から取り崩し、適格退職年金制度及び厚生年金基金制度のもとでは、年金財政計算により算定された拠出金額は、年金資産への拠出時に退職給付引当金を取り崩します。

上記のように、退職給付会計基準は従来の会計実務とは異なった費用認識及び退職給付引当金の取崩しを定めていますが、これらの一連の会計処理は税務上次のように取り扱われます。  

  1. 現行税法の具体的な取扱いの概要

    退職給付会計に係る税務上の取扱いは、現行税法の規定が適用されます。

    1. 退職給付引当金

      法人税法に規定する退職給与引当金の繰入限度額の範囲内で損金算入が認められます。

      会計基準変更時差異の当期費用処理額が他の退職給付費用計上額と併せて、税務上の退職給与引当金の繰入限度額を超える場合には、その超える部分の損金算入は認められません。

    2. 適格退職年金の掛金

      法人税法の規定に基づき拠出時に損金算入されます。

    3. 厚生年金の保険料又は厚生年金基金の掛金、徴収金

      法人税法の規定に基づき掛金等の計算期間の末日の属する事業年度の損金算入が認められます。

      なお、適格退職年金の掛金又は厚生年金又は厚生年金基金の保険料等の損金算入は損金経理が要件とされていないため、会計処理のいかんにかかわらず損金算入となります。

  2. 退職一時金規程に基づく退職給与引当金の損金算入限度額

    退職給付会計における退職一時金規程(企業内年金の規程を含む。以下同じ。)に基づく退職給付引当金は法人税法上の退職給与引当金に該当します。

    当期の退職者に係る退職一時金規程に従った支給額が退職給付引当金から全額取り崩されていることを前提に、税務上の損金算入限度計算の基となる帳簿上の退職給与引当金繰入額は、退職給付会計基準のもとでは、退職給付債務に係る費用項目、すなわち、(イ)勤務費用、(ロ)利息費用、(ハ)過去勤務債務の費用処理額、(ニ)退職給付債務に係る数理計算上の差異の費用処理額、(ホ)会計基準変更時差異の費用処理額の合計額となります。

  3. 退職一時金規程に基づかない退職加算一時金の損金算入

    退職給付会計基準に基づいて数理計算方法により計算された退職給付債務に含まれていない臨時に支給される退職給付であって予め予測できないものについては支給確定時の損金として取り扱われます。

  4. 外部拠出の企業年金との区分

    退職給付会計における退職給付引当金は、(1)事業主が直接支給する退職金部分(企業内年金の部分を含む。以下同じ。)と(2)外部拠出の企業年金部分とを区分しないで処理することを認めています。

    一方、税法上は(1)事業主が直接支給する退職金部分のみを退職給与引当金の対象とし、(2)外部拠出の企業年金は拠出時にその掛金等の損金算入を認める仕組みになっています。

    そこで、法人が退職給付引当金について、(1)事業主が直接支給する退職金部分と(2)外部拠出の企業年金部分とに区分した場合には、区分計算書(明細書)を法人税の確定申告書に添付することを条件に、(1)事業主が直接支給する退職金部分に係る退職給付引当金のみを税務上の退職給与引当金として取り扱うこととしています。

    このように区分した場合には、(2)外部拠出の企業年金部分に係る退職給付引当金の繰入れ又は取崩しが行われたとしても、税法上は退職給与引当金の繰入れ又は取崩しとして取り扱わないこととし、法人税の所得計算には全く影響させないこととしています(繰入額は全額損金不算入、取崩益は全額益金不算入)。

    なお、区分計算書(明細書)が法人税の確定申告書に添付されない場合には、原則として、財務諸表に計上された退職給付引当金(脚注表示による金額を含む。)の全額を税務上の退職給与引当金として取り扱うことになります。

  5. 退職給付信託に係る取扱い

退職給付信託は、受益者が特定されていないことから、会計処理と税務上の処理で、以下の差異が発生します。
  1. 会計上認識された退職給付信託設定損益は、税務上の損金・益金処理を行わない。
  2. 事業主又は退職給付信託から、退職一時金規程に従って退職者に給付された場合、当該支給額について、会計上は費用処理を行わないが税務上は損金処理を行い、退職給与引当金の減額については、益金処理を行う。
  3. 退職給付信託における年金資産が、外部に売却された場合の売却損益や債券の償還を迎えることにより発生した償還損益は、税務上は売却時又は償還時の損金・益金となるが、会計上の損益は発生しない。
  4. 退職給付信託の年金資産から稼得された、配当金(益金不算入限度超過額)や利息収入等の実際運用収益は税務上事業主の益金となるが、会計上は収益認識しない。
  5. 退職給付信託の年金資産に係る期待運用収益及び当該年金資産に係る数理計算上の差異の費用処理額は、税務上の損金・益金にはならない。

なお、退職給付信託を設定している場合には、計算書類の注記として退職給付 制度ごとに期末における年金資産控除前退職給付引当金残高とそれと相殺表示されている退職給付信託における年金資産額を記載し、退職一時金規程に係る税務上の退職給与引当金残高と純額表示されている貸借対照表の退職給付引当金(又は前払年金費用)との関係を明らかにする必要があります。



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