デリバティブ取引と会計 |
欧米ではデリバティブ取引に「時価主義会計」を導入していますが、わが国では取引を決済したときに初めて損益を認識する取得原価主義会計が採用されています。
取得原価主義では多額の「含み損」が生じていても損益計算書に反映されず、実態が明らかになりません。
また、決済した時点で初めて損益が実現するので毎期の決算が大きく変動し、決済を恣意的に行うことで利益操作ができる等の欠点が指摘されています。
デリバティブ取引は、預金取引や有価証券取引など貸借対照表に表示されるオンバランス取引と異なり貸借対照表に表示されないオフバランス取引となっています。したがって、投資家等が取引実態を的確に把握できるようにするために注記等により十分な情報開示を行う必要があります。
デリバティブによって現物の価格変動をヘッジしているとき、ヘッジ会計では現物の損益と先物の損益を相殺して計上するので、ヘッジの実態が決算書に反映されることになります。しかし、現行会計実務ではヘッジ会計が導入されていないので、現物の損益と先物の損益の計上時期が一致しない場合、ヘッジ取引の実態が決算書に反映されないことになります。
債券先物取引に係る損益は差金決済時に認識し、その損益は有価証券売却損益等適当な科目で計上します。
また、債券先物取引残高のうちヘッジ取引以外のものがある場合に、当該契約に関し期末日現在において計算上損失があり、かつ、その金額が重要であるあるときは、契約がある旨および当該契約残高を注記します(債券先物取引の会計処理ー日本公認会計士協会)。
なお、通貨先物については為替予約と同等の処理を行います(改訂外貨建取引等会計処理基準)。
売建時に受け取ったオプション料は「売建オプション」等適当な科目をもって貸借対照表の負債の部(財務諸表規則等取扱要領では前受金)に、買建時に支払ったオプション料は「買建オプション」等適当な科目をもって貸借対照表の資産の部(財務諸表規則等取扱要領では前渡金)に 計上します。
(先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について、財務諸表規則等取扱要領第57及び第119)
なお、通貨オプションについては、外貨建の短期金銭債権債務に付された買建てオプションで、権利行使価格が決算時の為替相場より著しく有利な状態にあり権利行使が確実に見込まれる場合には、 為替予約と同様の処理を行うことが求められています(改訂外貨建取引等会計処理基準)。
金利スワップ処理については現在のところ基準や指針といったものは特にありませんが、一般にスワップ差額を支払いスワップ金利又は受取りスワップ金利等適当な科目で処理を行っているようです。
通貨スワップは改訂外貨建取引等会計処理基準で為替予約に関する基準の規定に従った処理を求めています。
債権先物取引の会計処理に準じ、損益は差金決済時に認識し、金利先渡し決済損益、または為替先渡し決済損益等適当な科目で計上することが適当であると考えられます(金利先渡し取引及び為替先渡し取引の会計処理についてー日本公認会計士協会リサーチセンター審理情報)。為替の現物先渡取引である為替予約については改訂外貨建取引等会計処理基準の規定の適用があります。
短期の外貨建金銭債権債務に為替予約を付した場合、予約時までの為替差損益(直直差額)は予約時の属する期間に計上しますが、予約レートと予約時の相場(直洗差額)については予約時から決済時までの属する期間に配分することができます。
長期の外貨建金銭債権債務に為替予約を付した場合、直直差額も含めて予約時から決済時までの属する期間に配分する必要があります。
昨年7月に、一般事業法人を含む企 業のデリバティブ取引等に係るディスクロージャーの充実を図ることを目的に、「財務諸表等の規則」等の改正省令の公布、および通達の改正が行 われました。
デリバティブ取引がオフ・バランスであるため、投資家等の財務諸表利用者が的確な取引実態を把握することが困難であることからデリバティブ取引に係る情報開示が強く求められていました。
現在、先物取引及び上場オプション取引の時価の開示、オフ・バランスとなっている為替予約取引の時価の開示が行われていますが、今回の改正によりディスクロージャーの対象となるデリバティブ取引が拡大し、同取引の定量的情報開示の充実、定性的情報開示の導入が行われることになりました。改正のポイントは次のとおりです。
- ディスクロージャー対象範囲の拡大
現在開示されている先物取引、上場オプション取引、為替予約だけでなくデリバティブ取引全般が開示対象となります。- 定量的情報開示の充実
取引規模の開示のため想定元本・契約額の充実を図り、取引所取引に加え、店頭取引を含む全取引について時価及び評価損益の開示が求められています。- 定性的情報開示の導入
取引の内容、取組方針、リスク管理体制等についての定性的情報の開示が導入されました。- 会計士監査対象化
従来、有価証券の時価及びデリバティブ取引の開示は財務諸表外で開示されていましたが、改正では財務諸表の注記事項とし、公認会計士監査の対象に含められることになりました。- トレーディングと非トレーディングの区分
トレーディング取引を行う銀行・証券会社等については、トレーディングと非トレーディングを区分して定量的情報の開示ができるとされています。- 開示の時期
想定元本・契約額及び定性的情報の開示は平成9年3月決算又は平成9年3月中間決算から開示を行い、時価及び評価損益については、現在開示されている先物取引、上場オプション取引、為替予約以外の取引については、平成10年3月決算又は平成10年3月中間決算から開示を行うことになります。
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